運動は、活性酸素の産生を高め、細胞機能を損なう可能性がある反面、健康に良いと推奨されている。一見同じに見える現象が相反する効果をもたらす。 「運動と酸化ストレスに関してタンパク質に注目した研究は、少ない。特に、穏やかな定期的運動の効果を見たものはない。本研究では、タンパク質の酸化傷害の蓄積とその分解処理能を指標に定期的運動が認知機能および脳のタンパク質酸化傷害の蓄積および分解能におよぼす影響を調べた。 【材料・方法】若齢(1ヶ月齢)と中齢(14ヶ月齢)のラットに週5回の水泳運動を9週間行わせたのち、記憶能を測定した。その後、脳を摘出し、酸化ストレスの指標として、過酸化脂質(TBARS)、DNA(8-ヒドロキシグアノシン)とタンパク質酸化傷害(タンパク質カルボニル)を測定した。異常タンパク質の除去能の指標としてプロテアソーム活性を測定した。 【結果】受動的回避能:若齢では運動の影響は、見られなかったが、中齢動物では、加齢で若干低下した能力が若齢レベルにまで回復した。能動的回避能:両グループとも運動によって顕著な亢進が見られた。酸化ストレス指標:TBARS、8-ヒドロキシグアノシン量には、運動による変化は、見られなかったが、タンパク質カルボニル基には、有意な減少が観察された。プロテアソーム活性が上昇した。 【考察】本研究により、穏やかな定期的運動がラット脳の酸化修飾タンパク質を減少させ、学習・記憶能力の改善することが示された。他の研究者の報告も考え合わせると、カルボニル化タンパク質の蓄積と脳機能の間には、深い関連があると言える。脂質過酸化、DNA酸化傷害とも運動による影響は見られず、運動の認知機能改善効果は、酸化ストレス一般の軽減によるのではなく、酸化傷害タンパク質の蓄積軽減が重要であると考えられる。適度な運動が、プロテアソームを活性化して異常タンパク質の蓄積を減らすあるいは防止することが出来れば、老化介入・老化関連病態の発症遅延ができる可能性がある。
|