研究概要 |
アセトアセチル-CoA(AA-CoA)合成酵素はケトン体であるアセト酢酸をAA-CoAに活性化する酵素であり、糖尿病や高脂血症などの脂質代謝異常による疾病と深く関連していると考えられている。本研究では本酵素の生化学的、生理学的役割を分子レベルで明らかにすることを目的とし、得られた知見に基づく病態治療薬の開発を最終目標とする。先ず、本酵素遺伝子のクローニングを試みたところ、得られたラット及びヒトのAA-CoA合成酵素遺伝子は共に2,016の塩基対からなり、672のアミノ酸をコードしており、そのアミノ酸配列の相同性は89.3%であった。次に、本酵素の生体内動態を解析するため臓器中の発現量を測定したところ、ラットにおいて雄では脳、腎臓、肝臓、心臓の順に、雌では脳、肝臓、腎臓、心臓の順に多く発現しており、肝臓では雄よりも雌に多く発現し、HMG-CoA還元酵素と同様な発現パターンを示した。ヒトにおいては、腎臓、脳、心臓、骨格筋、胎盤に多く発現していた。本酵素が脳に比較的強い発現を示したことからヒトの脳組織における発現分布を調べたところ、本酵素の発現量は延髄、小脳、脊髄よりも大脳皮質に高く、また大脳皮質側頭葉の内側部に位置する海馬に多く、HMG-CoA還元酵素の発現量と連動していた。さらに糖尿病病態時、本酵素の活性は激減し、同時にHMG-CoA還元酵素の活性も減少したが、血中ケトン体濃度は急激に上昇した。そして、コレステロール低下剤投与により本酵素が誘導されるとともに血中ケトン体は正常値に近い値へと回復した。従って、糖尿病の初期の段階において本酵素が存在するとケトン体の上昇は抑制されることが分かった。以上、肝臓においてAA-CoA合成酵素の活性は糖尿病時のケトン体の血中濃度を左右する因子として重要であり、脳において海馬の記憶機能に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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