1海馬スライス標本を用いた実験 記憶形成の物理的裏付けであるシナプス可塑性へのβ-amyloid proteinの作用を調べ、GLP-1がどのように関与しているかを検討した。常法により作製したラット海馬スライス(400μm厚)からCA1集合EPSPの長期増強現象(LTP)を記録した。予め3時間撹拌したβ-amyloid protein (1-42)溶液中でスライスを1時間処理後、記録チャンバーに移して薬物を含まない人工脳脊髄液で灌流した。β-amyloid protein処理によりLTP発現が阻害されたが、GLP-1受容体拮抗薬exendin (9-39)または(5-39)をβ-amyloid protein処理液に混入して同時に処理すると、この阻害はみられず対照群と同様のLTPが発現した。β-amyloid protein処理後のスライスには、対照群では検出できない内在性GLP-1の産生が認められた。これより、内在性GLP-1がβ-amyloid proteinによるシナプス可塑性障害を仲介ないしは増悪することが示唆され、既に報告した行動実験での学習記憶障害と同様の現象をin vitroの実験系で再現できた。GLP-1受容体は主としてGs蛋白を介して細胞内cAMPを増加させることが報告されているため、この内在性GLP-1の作用にcAMPが関与するか否かについて検討した。その結果、細胞内cAMPの増減は本研究でみられるシナプス可塑性障害には関与していないことが明らかになった。 2培養海馬神経細胞を用いた実験 上記のシナプス可塑性障害の機序解明に加えて、β-amyloid proteinによる神経細胞死の作用機序解明を行うため、ラット胎児から単離した海馬神経細胞を初代培養し、β-amyloid proteinにより神経細胞死を誘発させる条件を確立した。
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