Glucagon-like peptide-1(GLP-1)がβアミロイド蛋白による脳機能障害を仲介する細胞内機序と胎生期における生理学的機能に関して以下の知見を得た。 1.βアミロイド蛋白持続注入ラット:海馬神経細胞死は学習記憶障害より遅れて発現し、転写調節因子NFKBの活性化を伴うこと、いずれもGLP-1受容体拮抗薬exendin(5-39)の併用投与で抑制されることが明らかになった。 2.ラット海馬スライス標本:βアミロイド蛋白溶液中でスライスを1時間処理後、記録チャンバーに移して薬物を含まない人工脳脊髄液で灌流した。βアミロイド蛋白処理によりCA1集合EPSPの長期増強現象(LTP)発現が阻害されたが、exendin(5-39)の併用処理によりLTPが回復した。βアミロイド蛋白処理後のスライスには、対照群では検出できない内在性GLP-1の産生が認められた。これより、βアミロイド蛋自で産生誘導されたGLP-1がβアミロイド蛋白によるシナプス可塑性障害を仲介ないしは増悪することが示唆された。さらに、この相互作用には細胞内cAMPの増減は関与していないこと、リン酸化P38MAPキナーゼ含量の増加が関与すること、NFKBの活性化を伴わないことが明らかになった。 3.ラット胎児海馬および初代培養海馬神経細胞:βアミロイド蛋白の有無に関係なく常に内在性GLP-1が産生されていた。Exendin(5-39)を培地に添加すると、細胞生存率には影響せずに神経突起の伸長が抑制されること、この作用に細胞内cAMPおよびMAPキナーゼ系と関連する数種のリン酸化酵素の変動を伴うことが明らかとなった。大脳皮質細胞や脊髄細胞でも同様であることから、発生期の中枢神経系ではGLP-1は神経栄養因子として機能しており、成熟後の脳損傷時にも同様の機能を示す可能性が考えられる。
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