これまで(12年度)の研究結果から、単離したOsp94遺伝子の上流領域(2.8kbp)は高浸透圧ストレスおよび熱ストレスに応答するエレメントを有することが認められたので、本研究では、さらに、それら応答エレメントを詳細に解析した。これまでに、浸透圧応答エレメントとして、イヌのベタイン輸送体遺伝子のTnoE並びにウサギのOREが報告されてきている。本研究おいて、Osp94遺伝子の上流2.8kbp内にTonEに類似する塩基配列があること、またレポーターアッセイの結果から、この配列部分が浸透圧応答エレメントと機能するものと考えられた。そこでさらに、このエレメント(13bp)を、SV40プロモーターを有するレポーター遺伝子に組み入れ、イヌのTonE並びにウサギのOREと比較検討した。その結果、解析した13bpを導入したIMCD細胞におけるルシフェラーゼ活性は高浸透圧下において、顕著に増加した。さらに、そのエレメント配列に点変異を入れ、ルシフェラーゼ活性を測定したところ、wild typeと比較し、高浸透圧による活性増加の抑制が認められた。したがってこれらの結果から、この13bpは高浸透圧感受性エレメントとして機能するものと考えられた。さらに、同定した13bpの浸透圧応答エレメントに結合する転写因子の存在を検討するため、13bpをプローブとしてゲルシフトアッセイを行った。その結果、ゲルシフトアッセイにより、高浸透圧下で処理されたIMCD細胞において、シフトするバンドが認められた。このことから、高浸透圧に応答し、Osp94遺伝子の浸透圧応答エレメント(13bp)に結合するタンパク質が存在することが明となった。今後さらに、この結合タンパク質が、最近、クローニングされたTonE結合転写因子(TonEBP)なのか、または、Osp94遺伝子の浸透圧応答エレメントに結合する新規の転写因子なのかについて、さらに検討していく予定である。 以上、本研究では、Osp94遺伝子の上流領域の解析から、新規の浸透圧エレメントの存在を明らかにした。さらに、浸透圧エレメントに結合するタンパク質の存在も明にした。尚、この浸透圧応答エレメントはHsp70遺伝子をはじめとする既存の分子シャペロン遺伝子の上流領域の解析においては未だ見い出されておらず、この知見は、異なる遺伝子ファミリーを形成する高分子量分子シャペロンの一つであるOsp94遺伝子の機能解明につながるばかりでなく、未解決な浸透圧ストレス応答の細胞内情報伝達機構の解明に大きく貢献できるものと考えられる。
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