上皮性癌細胞の産生するムチンの生物学的機能を検討する過程で、ムチンが単球/マクロファージを活性化することを見出した。ヒト腸癌細胞LS180細胞の産生するムチンを精製し、ヒト末梢血より調製した単球の培養液に加えると濃度依存的にIL-1βなどのサイトカインや生理活性物質のPGE2の産生が亢進した。PGE2の場合、律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ2(COX2)mRNAおよび酵素タンパク質の誘導が認められた。ヒト腸癌組織を用いた組織化学的研究では、腫瘍組織に浸潤したマクロファージの中で、ムチンが近傍に存在する場合のみCOX2酵素タンパク質が検出された。従って、in vivoにおいても同様の機構でCOX2が誘導されているものと考えられる。次にマウス乳癌細胞由来細胞株でムチン(エピグリカニン)産生株のTA3-Haと非産生株のTA3-Stを用いて、皮下腫瘍組織の形成について比較した。両細胞株のin vitroにおける増殖速度は、ほぼ同様であるにも拘わらず、マウス皮下腫瘍においてはTA3-Haの方が著しく早く増殖した。組織より調製したタンパク質およびRNA画分を用いて解析し、TA3-Haのみにムチンが検出されることを確認すると共に、COX2mRNAもTA3-Haで著しく誘導されていることがわかった。また、組織化学的に観察するとTA3-Haでは、ムチンは組織全体に分布し、全体に浸潤したマクロファージにCOX2が検出された。これらの結果は、ムチンによるCOX2の誘導が腫瘍組織形成に大きな役割を果たしていることを示している。
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