ダウン症は21番染色体のトリソミーが原因で起き、21番染色体の長腕の約1.6Mbからなる領域がダウン症に密接に関連した領域(Down syndrome critical region)であるとされている。この領域にはリン酸化酵素をコードするMnb遺伝子(現在、MNB/DYRKIA遺伝子という呼称に統一されている)が存在している。我々は、この遺伝子産物に特異的に反応する抗体を作り、ラットの発生段階の初期に、MNB/DYRK1Aダンパク質が脳の各部位および心臓に高発現していることを示した。また、MNB/DYRK1Aタンパク質には少なくとも3種類のアイソフォームが存在し、これらアイソフォームはSDS-PAGE上の移動度だけでなく、細胞内の分布も異なっていた。Mhb/DyrK1A遺伝子をgreen fluorescent protein(GFP)融合蛋白質としてHeLa細胞に一過性に発現させ、蛍光顕微鏡を用いて細胞内の局在を調べると、MNB/DYRK1Aタンパク質の発現が低い細胞では核内にドット状に存在し、M期へと進行することが観察された。しかし、高発現の場合には核全体に存在し、M期へ進行せず多核細胞を形成することが分かった。通常、細胞周期の進行と共に細胞分裂に向け多くの細胞内反応が協調的に起こる。しかし、MNB/DYRK1Aタンパク質を過剰に発現した細胞では、何らかの原因で、これら反応の協調性が異常になり、核分裂および細胞質分裂が同調して起きず多核細胞が出現したと考えられる。今後、MNB/DYRK1Aタンパク質が細胞周期を正常に進める上で、どのような重要な役割を担っているか研究する予定である。
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