SV40温度感受性T抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの未分化間葉系細胞より分離されたTBR31-2細胞は、分化の方向性が決定されておらず、分化惹起物質の選択により骨芽細胞にも脂肪細胞にも分化する可能性がある。9代及び15代継体した細胞について、骨形成の分化マーカーであるアルカリ性ホスファターゼ(ALP)が誘導される日数や石灰化を起こす期間を比較した結果、継体数の少ない細胞ほど骨分化に長期間を要することが判明した。 骨芽細胞および脂肪細胞への分化惹起物質を用いて転写調節因子や表現形質の発現をRT-PCR法で調べた。TBR31-2細胞培養時にBMPを添加すると、1日目から用量依存的なALPの誘導が起こり、転写調節因子であるCbfa1の発現も経日的に増加した。しかし、脂肪細胞へ分化を促進するトログリタゾン(TG)を加えても、Cbfa1の発現は変化しなかった。脂肪細胞の転写調節因子であるPPARγはTGを加えると、その発現が増加したが、BMP-2添加でも上昇傾向が認められた。すなわち、TBR31-2細胞では分化惹起物質により、短期間に骨芽細胞へも脂肪細胞へも分化の振り分けが起こるが、もう一方の転写調節因子の発現は保持したままであることが判明した。骨芽細胞の表現形質はBMP-2添加により増加し、TGの添加で減少した。脂肪細胞の表現形質の発現は、TGの添加で増加したが、BMP-2添加でも、増加する傾向が認められた。また、BMP-2を添加した場合の顕微鏡による観察で、石灰化による沈着物が認められた。一方、TGを添加すると、○il red○染色による脂肪滴の蓄積が認められた。このようにTBR31-2細胞は、分化惹起物質の作用により形態学的に脂肪細胞と骨芽細胞の2方向へ分化する能力のある幹細胞であることが確認された。
|