B型肝炎ウイルスは疫学的な研究から、肝発癌との関連が示されている。ウイルスがコードするX遺伝子が肝発癌の原因遺伝子であることは我々のグループも含めたいくつかのグループの研究により示されてきた。また、近年X遺伝子発現により細胞死が誘導されることも明らかになってきており、肝癌発症のみではなく、肝炎症状の憎悪化にもXタンパク質発現が関与しているものと考えられてきている。X遺伝子は多様な機能が報告されているものの、報告されている機能とウイルス複製の調節および、肝炎症状の憎悪化、肝癌発症との関連などいまだ不明の点が多い。当研究の目的は、X遺伝子の機能を明らかにすることによって、B型肝炎ウイルスによる肝炎および肝癌の発症機構を解明し、創薬研究の基盤とすることにある。我々はXタンパク質がミトコンドリアに局在することを生化学的手法および、細胞染色によって明らかにした。また、Xタンパク質およびその変異体を用いた実験から、68-117番目までのアミノ酸領域がミトコンドリアへの局在、細胞死誘導共に重要であることを示した。また、Xタンパク質がミトコンドリアに局在することにより、ミトコンドリア膜電位の低下を引き起こし、ひいては細胞死を誘導していることを明らかにした。これらの結果は論文として、J.Biol.Chem.誌に掲載予定である。また、Xタンパク質はミトコンドリアに局在する際に、活性酸素が生成され、DNA損傷が引き起こされていることも明らかにし、Xタンパク質発現による癌化の機構がより明確になってきた。これらの結果は、現在、投稿準備中である。今までの研究成果により、Xタンパク質のミトコンドリアへの局在を阻止する、あるいは、活性酸素生成を抑制することができれば、肝癌発症の抑止、また肝炎症状の緩和につながることと思う。
|