細胞増殖と細胞死はとても密接な関係にあり、それぞれのバランスをとることにより、生体は維持している。従って、細胞増殖と細胞死は常に一緒に考えていかなければならない現象であると思われる。最近になって細胞死を誘導する際に、タンパク質分解酵素によって切断されると酵素活性を著しく増加させるプロテインキナーゼ(MST/Krs)が示された。この酵素は、細胞増殖時でもある一定レベルの酵素活性を有しており、タンパク質分解酵素によって切断されると酵素活性を著しく増加させ細胞死を誘導する。このように細胞死誘導時における役割が示されつつある酵素であるが、細胞増殖時における役割は未だ不明のままである。そこで本研究は、MST/Krsタンパク質の細胞増殖時における役割を解明することを目的として、MST/Krsタンパク質の酵素活性を欠失した変異体の作製を行い、著しく増殖を繰り返している細胞にこの変異体を強制発現させた。酵素活性を欠失したMST/Krsタンパク質発現細胞では、コントロール細胞に較べ、その細胞の大きさが著しく増加していた。そして形態学的解析結果から、細胞増殖時においてMST/Krsタンパク質の酵素活性を阻害すると、細胞の核分裂ではなく細胞分裂が阻害されることを明らかにした。この結果から、MST/Krsタンパク質は細胞分裂において重要な役割を担っているものと考え、MST/Krsタンパク質の詳細な役割を解明すべく、現在、さらに研究を進めている。
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