遺伝子治療が21世紀の革新的医療技術と位置づけられることは、ゲノム解析の進展とその成果の応用ともあいまって明らかである。この遺伝子治療を普遍的なものとしていくためには、目的遺伝子を必要な細胞に効率よく導入し、遺伝子発現を必要な期間、必要な程度に発現させることができ、かつ安全性も高いベクターおよび遺伝子発現系の開発が必要不可欠である。本研究では、アデノ随伴ウイルス(AAV)がヒト染色体の安全な領域へ部位特異的に遺伝子を組み込む能力を有することに着目し、その機能を担う特定の塩基配列を利用することによる目的遺伝子及び遺伝子発現調節領域の染色体への導入と長期遺伝子発現系の構築に関する技術開発を目指して以下の結果を得た。 1.AAV ITR配列をもったベクターを、AAV由来の染色体への部位特異的挿入活性を担うRep78発現プラスミドとコ・トランスフェクションすることによりRep78発現プラスミド非存在下の時に比べ薬剤耐性細胞の増加、即ち、染色体への組み込み能の上昇が観察されることを確認した。 2.ラムダファージに組み込まれたhAATゲノムDNA(19Kb)のプラスミドベクターへのクローニングを試みたが遺伝子サイズが巨大なため通常の方法ではクローニングが困難であった。そこで、大腸菌の相同組換え法を用いてhAATゲノムDNAのプラスミドベクターへの組み込みを検討中である。上記ベクターを作製後、AAV由来の配列を付与し、細胞ヘトランスフェクション後の遺伝子発現制御能、染色体への組み込み能について検討予定である。 3.効率の良い発現能を有するベクターの開発のため、プロモーター、エンハンサー、イントロン、P(A)からなる転写活性化因子の組み合わせを最適化した。
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