DNAポリメラーゼε(polε)は、高等真核細胞において染色体DNA複製・修復そして細胞周期の進行のチェック機構に関与し、多様な機能を持つことが示唆されている。polεの機能を分子レペルで明らかにすることを目的に研究を進めている。これまでに、マウスpolεの4つのサブユニット構造の解析、各サブユニットの細胞周期や紫外線照射時の転写レベルの変動を解析した。 本年度はpolεが相互作用する他の因子を同定することで、その多様な機能の解明を試みた。polεが分類されるBタイプDNAポリメラーゼの2番目のサブユニットには、保存された短い12の領域が見いだされ、機能解析に鍵となる領域と思われる。この2番目のサブユニット(DPE2)に注目し、相互作用する因子を酵母の2ハイブリットの実験系で検索した。 その結果、SAP18が再現性良く相互作用した。SAP18はクロマチンの構造変換や転写調節に関与しているSin3複合体の構成因子であり、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)も構成因子の一つに含まれている。DPE2とSAP18を大腸菌中や高等真核細胞中で過剰発現させたものを用いて、実際に高等真核細胞の中で相互作用することを確認した。さらに、レポータープラスミドを用いた細胞内での転写活性測定法により、DPE2がSAP18と相互作用することによって、転写を抑制することが判明した。さらに、その抑制がHDACの特異的阻害剤であるトリコスタチンAの投与により一部解除され、DPE2による転写抑制にHDACが関与していることも示した。以上から、DPE2を含むpolεが、ヒストンの脱アセチル化を調節して複製や修復の際のクロマチンの構造変換に関与している可能性が示唆された。
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