DNAポリメラーゼε(pol ε)は、高等真核細胞において染色体DNA複製・修復そして細胞周期進行のチェックポイント機構に関与し、多様な機能を持つことが示唆されている。pol εの機能を分子レベルで解析することが本研究の目的である。これまでに、マウスpol εの4つのサブユニット構造の解析、転写レベルの解析、さらに2番目に大きなサブユニット(DPE2)がSin3複合体の構成成分であるSAP18と相互作用し、pol εが複製反応中にSin3を介してクロマチン構造や転写制御に関与しているヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を呼び込んでいる可能性を示唆した。 本年度はさらにpol εとSin3複合体との相互作用の詳細な研究を展開した。DPE2の部分欠損タンパク質を用いたSAP18との共沈実験から、DPE2の177〜250のアミノ酸領域がDPE2とSAP18の結合に特に重要であった。この領域はBタイプDNAポリメラーゼの2番目のサブユニットに保存された配列を含んでおり、他のDNAポリメラーゼの2番目のサブユニットとSAP18との結合の可能性も示唆された。また、界面活性剤やDNaseIを用いた細胞分画から、SAP18はヘテロクロマチン領域に多く存在しpol εの挙動に近いものだった。しかしSin3自体はいろいろな分画に存在していた。細胞分画の各画分の細胞周期変動を調べると。pol εはS期で増えS期を抜けると減少する傾向に対し、Sin3はその度合いが小さかった。グリセロール密度勾配遠心実験からも、pol ε、Sin3、SAP18が複合体を形成していることが示唆されたが、量的にはわずかであった。Sin3はピークがいくつか存在し他のタンパク質との複合体形成を示唆し、存在様式が多様なことが判明した。また、免疫沈降実験から、pol εのいずれかのサブユニットとSin3が直接結合し、DPE2とSAP18がその結合を安定化していると思われた。以上より、生理的にもpol εとSin3の結合が示され、複製の前後でのヌクレオソーム構造の変換にpol εが関与している可能性が示唆された。
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