アンジノーサス連鎖球菌の一種Streptococcus intermediusからインターメディリシン(ILY)を見いだした。遺伝子解析の結果、ILYはストレプトリシンO(SLO)に代表されるSLOファミリー細胞溶解毒素(SFC、従来名はコレステロール結合性細胞溶解毒素(CBC))に属することが明らかになった。しかし他の一般的なSFCと比較してILYは、分子内にシステインを持たないことからチオール剤による活性化を受けないこと、コレステロール(CHL)に対して特異的結合性を示さないこと、さらにヒト細胞に特異的に結合して細胞膜に孔を形成するなど性格を異にする。我々はこれまでに、ILYとSLOの部分構造を連結させたILY/SLOキメラ体やCBCで細胞膜の認識結合に重要である11mer(システインモチーフ)含有領域をCBC型に変異させたILY変異体を作成し、溶血、種特異性コレステロール結合性・細胞膜結合性を検討してきた。その結果、ILYのヒト細胞を特異的に認識する部位はドメイン4(ILY4D)内に存在することが明らかになっている。 ILYの分子内におけるヒト細胞特異的結合部位の構造を検討した。先ずILYが属するストレプトリシンO(SLO)ファミリー細胞溶解毒素(SFC)の立体構造とILYを比較したところ、ILYの細胞膜結合領域(ドメイン4)にのみC末端の延長配列NTDが存在し、それが膜孔形成の際に自己会合を起こす2面と異なる面に位置していることが明らかとなった。そこでNTD配列を欠損した組み換え体ILY(ΔNTD)を作成し、野性型ILYと構造や活性を比べたところ、立体構造上の大きな変化は無いが、赤血球溶血活性が1万分の1に減衰し、赤血球結合親和性も著しい低下が認められた。従ってILYのヒト細胞特異的結合部位はドメイン4内の膜孔オリゴマーを形成する自己会合面と異なる面に存在し、NTD配列を含むC末端近傍の構造であることが強く示唆された。また、ILYの膜結合領域を用いたターゲッティングモジュールの一例として、抗CEA抗体-I1LY4D連結体を結合させたヒト赤血球をCEA陽性ヒト甲状腺癌細胞TTへ選択的に送り届けることに成功した。
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