腎尿細管有機イオン輸送システムは、薬物体内動態制御過程として医薬品の有効性・安全性と密接に関連している。腎不全時には腎排泄型薬物の尿細管分泌が低下することが明らかにされているが、その分子的機序や変動要因については不明である。本研究では腎疾患モデル動物における尿細管有機イオントランスポータの発現変動を比較精査し、薬物排泄機能低下との相関ついて解析を実施した。5/6腎摘出術により腎不全を発症したラット腎において、有機アニオントランスポータOAT-K1及びOAT-K2の遺伝子発現量は、いずれも模擬ラットと比較して処置2週以降顕著に低下していた。OAT-K1及びOAT-K2が尿細管上皮細胞に蓄積したメトトレキサートと尿細管管腔中に存在するフォリン酸との交換輸送を媒介することにより、メトトレキサート腎排泄を促進させることが示唆された。P-アミノ馬尿酸(PAH)またはシメチジンを模擬処置ラット並びに5/6腎摘出ラットに瞬時投与した後の組織取り込みクリアランスを算出した結果、5/6腎摘出ラットにおけるPAHの腎移行速度は、模擬処置群と比較して有意な変化を示さなかった。一方、5/6腎摘出ラットにおけるシメチジンの腎移行速度は、模擬処置群の約40%にまで低下しており、有機カチオントランスポー夕の機能的低下が示唆された。5/6腎摘出ラット腎における有機アニオントランスポータrOAT1、rOAT3及び有機カチオントランスポータrOCT1の発現量は、模擬ラットと同程度であったが、腎髄質部に発現するrOCT2の発現量は著明な低下を示した。この要因として腎不全の進展に伴うテストステロン血中濃度の低下が示唆された。これらの結果は.腎不全に伴う薬物トランスポータ発現量の変動を数値化解析を基盤とした薬物腎排泄動態の定量的予測・評価法の確立に有用な情報を提供するものである。
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