研究概要 |
本研究は、ポリアミン蓄積の影響、ポリアミン蓄積による細胞死のメカニズム解明を目指して、ポリアミン代謝酵素の一つであるspermidine/spermine-N^1-acetyltransferase (SSAT)の強力な阻害剤を設計・開発することを目的とし、昨年度までに、N^1-Dansylnorspermineを蛍光基質とするHPLCによるSSAT活性測定法が、組み換え体ヒトSSATを用いるSSAT阻害剤のスクリーニング法として有用であり、これまで報告のある阻害剤の中で最も強力とされるdi(ethyl)norspermineよりも数十倍強力な阻害剤を見いだした。本年度は、見いだした阻害剤の培養細胞に対する効果、さらなる阻害剤の開発、また、確立した阻害剤スクリーニング法の生体試料中SSAT活性測定法への応用について検討した。 スクリーニングよりSSAT阻害剤として見いだしたdi(hexyl)norspermidineおよびdi(decyl)-1,3-diaminopropaneは、ラットpolyamine oxidase (PAO)に対しても強い阻害効果を有しており、ラット肝がん由来HTC細胞に投与したところ、濃度依存的にポリアミン量の蓄積およびポリアミン逆経路が阻害されていることを示す結果を得、条件を検討することによりポリアミン蓄積の効果を調べる手段となりうることが示唆された。一方、両者とも数μM〜数10μMの範囲で強い細胞毒性を示し、動物への投与は困難であることが示唆された。また、当初計画していた遷移状態アナログの類似体を合成し、SSATに対する阻害効果を調べたところ、期待される強い効果は見られなかった。組み換え体ヒトSSATおよびSSATを薬物処理により誘導したHTC細胞の抽出液について、詳細に酵素反応を速度論的に解析し、生体試料中のSSAT活性測定条件を確立し、細胞試料へ応用可能であることを明らかにした。
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