研究概要 |
平成13年度は、前年度に成功したフェニラヒスチン(PLH)の全合成ルートを利用し、1)活性発現に重要なimidazole環5位側鎖の誘導、及び2)合成ルートの改良を行うと共に、これらの知見の3)デヒドロフェニラヒスチン研究への応用を実施した。 1)においては、imidazole環5位の側鎖は、PLH分子では2,2-ジメチルアリル基であるが、この水素原子置換体では全く活性が無く、側鎖構造が活性発現に必須であることを見いだしていたので、種々のアルキル鎖に置換した誘導体の合成を行い、P388癌細胞に対する殺細胞活性を検討した。その結果、置換基の根元部分は、直鎖アルキル構造よりも分岐した構造の方が高い活性を示し、分岐鎖はイソプロピル基よりも更に分岐したt-ブチル基の方が高活性で、且つPLHと同等な活性を有することが解った。即ち、2,2-ジメチルアリル基にも見られるジメチル構造が高活性発現に重要であることが解った。2)一方これらの合成は、確立されたPLH全合成ルートを用いているが、合成途上でラセミ化が起こる問題点があった。そこで、ラセミ化を抑制した新たな合成ルートの検討を行い、ビスラクチム環を経由してジケトピペラジン環を構築する新規合成法を開発した。本方法は、若干収率は低いが、ラセミ化を大きく抑制できる特徴を有している。3)岡山大学の神崎らは、PLHのPhe残基がデヒドロ構造に変換されたデヒドロフェニラヒスチン(ΔPLH)が、PLHを遙かに凌ぐ強力な細胞毒性を有することを報告したことから、我々も、PLH研究で培った合成手法を利用して、ΔPLHの合成、および、上記構造活性相関結果が、ΔPLHでも再現されるかを検討するために、合成法を検討し、ΔPLHの合成に成功すると共に、ΔPLHにおいても、imidazole環5位の側鎖は活性を低下させることなく、よりシンプルなt-ブチル基に変換可能であることを見いだした。 平成14年度においては、PLH・ΔPLH両者の誘導を更に精力的に進めることで、PLH分子機能の全容を解明し、チューブリン重合阻害機構に基づく医薬品候補化合物の獲得に挑戦する。
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