抗がん剤開発では、癌原遺伝子、癌抑制遺伝子、細胞内シグナル伝達を標的とした分子標的治療が注目されているが、微小管作用薬等の殺細胞活性を有する薬剤との併用が、治療効果を増強することが知られている。したがって、微小管作用薬は今後もがん化学療法において重要な役割を担うと考える。臨床では、微小管脱重合を抑制するパクリタキセルが肺がん等の治療薬として多用されているが、本薬剤に耐性を示すがんの出現が問題である。一方、微小管重合を阻害する薬剤では、作用点が若干異なるためにパクリタキセル耐性がん細胞にも一般に有効である。そこで本申請者は、微小管蛋白質であるチューブリンのコルヒチン結合部位を認識し、その重合を阻害する新規天然物であるフェニラヒスチンに着目し、基礎的研究を行ってきた。特に、本研究課題ではフェニラヒスチンの活性発現に寄与する構造的因子を検討した。その結果、ジケトピペラジン環とイミダゾール環、およびその間に形成される水素結合によって形作られるuniplanerな擬似三環構造の保持が活性発現に必須であることを見いだした。またイミダゾール環5位に存在するgem-ジメチル構造が強力な活性発現に重要であることも見いだした。一方、誘導体の合成ルート確立のためにフェニラヒスチンの全合成を行い、低収率ではあるがフェニラヒスチンおよびその類縁体であるアウランチアミンをそれぞれ1%と3%の総収率で初めて合成することに成功した。この合成ルートを用いて誘導体を合成し、構造活性相関研究を進めて、さらに活性発現に重要な分子の配座構造を検討し、現在はパクリタキセルに匹敵する高い殺細胞活性を有する誘導体の開発に成功している。これらの誘導体は分子量が約340で、パクリタキセルの40%と小さく、また比較的親水性の高い分子であり、活性値のみならず物性的にも優れた特性を有する。このように、本研究では抗がん剤として潜在性のある新規化合物を見いだすことに成功した。
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