研究概要 |
本研究の目的は,脂肪酸の任意の位置にフッ素を導入したホスファチジルコリンを合成し,これを用いて含フッ素リポソーム膜を形成し,フッ素の核磁気共鳴における緩和時間の測定から,膜中におけるフッ素の挙動をプローブとして,生体膜の挙動を明らかにし,さらにこれにビタミンEを添加した場合の影響を調べることにより,ビタミンEの膜中での挙動の解明を通して,ビタミンEの体内動態を明らかにし,未解決の問題が多いビタミンEの効果についても考察を加えようというものである. 研究の初期において,含フッ素ホスファチジルコリンを合成するための含フッ素脂肪酸の合成に主力を注いだ.合成したのは,天然のホスファチジルコリンに含まれるC-18の脂肪酸のカルボキシル基近傍,カルボン酸の末端メチル基,およびそれらの中間にフッ素置換した含フッ素カルボン酸,およびやや炭素鎖の短いカルボン酸の末端にフッ素を持つ含フッ素カルボン酸である.これらのカルボン酸を効率よく得るために,新しい反応の開発が必要であった. 得られた含フッ素カルボン酸からホスファチジルコリンへの誘導はかなり困難を極めた.数種の方法を検討したが,測定に十分な量の含フッ素ホスファチジルコリンは得られていない. しかしながら,得られたものを使った予備的試験で,カルボキシル基に近い位置のフッ素は可動性が低く,末端部のフッ素の可動性が最も高くなることがわかった.このことは,生体脂質膜の外部はコリン残基で水を介した水素結合などで比較的硬く,内部は脂肪酸側鎖が比較的流動生の高い層を形成しているという従来からの考え方を支持するものであった. これにビタミンEを添加すると,膜表面の可動性は多少押さえられることが分かった.さらに興味あることは膜内部の可動性が抑えられ,しかも,その割合は膜表面よりも膜内部の方が大きいことが分かった. 以上まとめると,本研究により,ビタミンEの活性は単なる抗酸化性のみならず,膜の可動性を下げる,すなわち,膜の可動性を下げて,膜を硬くすることにより,機械的強度を上げ,生体膜を安定化することにより,生理活性を発現している可能性が明確になった.
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