研究概要 |
ブレオマイシンやアドリアマイシン等の抗がん剤は酸素分子を活性化して抗腫瘍活性を示す。従って、嫌気的条件に保たれている固形腫瘍対しては充分に作用を発現しない。本研究では固形腫瘍に対して有効な殺細胞作用を有する化合物として、N-オキシド構造に注目した。今年度は、phenazine di N-oxide誘導体(1)をモデル化合物として合成し、N-オキシド構造からのヒドロキシルラジカル生成機構を明らかにした。1はアニリンと1-ニトロ-4-クロルベンゼンをアルカリ条件下縮合させた後、過酸化水素で酸化してフェナジン骨格(2-クロルフェナジン ジ-N-オキシド)を合成した後、1,3-ジアミノプロパンをアルカリ条件下、付加させて合成した。1のDNA切断実験を還元剤存在下、行ったところ、1は好気的条件下、及び嫌気的条件下で強力にDNAを切断した。このDNA切断活性はジメチルホルムアミド存在下では抑制され、DNA切断反応に活性酸素が関与していることが示された。また、1は還元剤存在下インキュベートすると好気的条件下では化合物に変化はみられないが、嫌気的条件下では脱N-オキシド反応が進行した。さらに、サイクリックボルタンメトリー法により、1の酸化還元電位を測定した結果、1は嫌気的条件下では還元的に脱N-オキシド反応が進行していること、また、好気的条件下では、脱N-オキシド反応は進行せず、1のアニオンラジカルは酸素へ一電子移動反応が進行してスーパーオキシドが生成していることが明らかとなった。以上の結果より、還元剤によって一生成する1のアニオンラジカルは好気的条件下では酸素分子に電子を渡してスーパーオキシドを生成してDNA切断活性を示すのに対して、嫌気的条件下では、N-オキシド構造からヒドロキシルラジカルが生成し、DNAを切断することが明らかとなった。以上、今年度はN-オキシド構造からのヒドロキシルラジカルの生成機構を明らかにし、N-オキシド構造が嫌気的条件に保たれている固形腫瘍に対して抗腫瘍化合物として、有効な構造であることが示された。
|