研究概要 |
強力な変異原性や発癌性を有するヘテロサイクリックアミン類はこれまで食品由来と考えられてきたが、大気や河川水など一般環境中にもその存在が認められるようになり、その分布や動態及び生体影響を把握することが衛生化学的観点から非常に重要な課題となっている。しかし、ヒトや生物がどの程度ヘテロサイクリックアミンに曝露されているのか、またそれが安全なのかどうかについては未解明のままである。そこで、本研究では、環境中生物やヒトにおけるヘテロサイクリックアミン汚染の実態を把握するために、ヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体をバイオマーカーとして解析する方法を確立し、環境汚染や生活習慣との関連性を明らかにすることを目的とした。 平成12年度においては、ヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体の選択的かつ高感度な分析法を確立するために、まず動物またはヒトの体液、組織、毛髪を試料として、ヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体の存在を明らかにし、測定条件の最適化を検討した。しかし、正常もしくは通常の食事(生活環境)下では、測定できるだけの付加体を確認できなかった。これは生体からの抽出、加水分解など測定条件が不十分なためと考えられ、付加体を確実に得るためには実験的にヘテロサイクリックアミンに曝露された動物から付加体を取り出すことが先決であると考えた。これと平行して環境中からのヘテロサイクリックアミン分析を進めてきたが、河川中にIQ,Trp-P-1やAαCなどが存在することを発見した[Mutat.Res.466(2000)27]。そこで、水生生物にもヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体が生成すると考え、メダカを用いた曝露実験を検討した。ヘテロサイクリックアミン(代表としてIQ,Trp-P-1,MeIQx,PhIPを用いた)水溶液中で数日間飼育したメダカの蛋白質分画を抽出、加水分解して、誘導体化、窒素選択検出ガスクロマトグラフィー[Encyclo.Anal.Chem.3(2000)2587;Encyclo.Sepa.Sci.5(2000)1982]で高感度分析したところ、Trp-P-1やPhIPの蛋白質付加体が生成していることがわかった。現在、この蛋白質付加体を分離精製中である。 平成13年度の計画としては、これらの蛋白質付加体を用いて生体組織からの簡便な抽出法、加水分解条件を確立して、どのような条件でどのヘテロサイクリックアミンと付加体を形成するのか、曝露と蛋白質付加体生成量との関連性を解析して、曝露指標としての有効性を明らかにする。さらに、ヒトの体液や毛髪を試料とした蛋白質付加体の解析に応用し、生活習慣(例えば肉食、菜食、喫煙など)との関連性を明らかにしていきたい。
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