研究概要 |
強力な変異原性や発癌性を有するヘテロサイクリックアミン類はこれまで食品由来と考えられてきたが、大気や河川水など一般環境中にもその存在が認められるようになり、その分布や動態及び生体影響を把握することが衛生化学的観点から非常に重要な課題となっている。しかし、ヒトや生物がどの程度ヘテロサイクリックアミンに曝露されているのか、またそれが安全なのかどうかについては未解明のままである。そこで、本研究では、環境中生物やヒトにおけるヘテロサイクリックアミン汚染の実態を把握するために、ヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体をバイオマーカーとして解析する方法を検討した。 メダカを一定期間ヘテロサイクリックアミン水溶液中に曝露させることにより、メダカ体内にヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体が生成することを確認した。検討したTrp-P-1,IQ, MeIQx, PhIPの中でTrp-P-1が最も蛋白質と付加体を作りやすいことがわかった。また、付加体から酸加水分解によりアミンを遊離させてGC-NPDで分析し、付加体量を測定する方法を確立した。本法により、ヘテロサイクリックアミン曝露濃度と付加体生成量との間に相関性が認められたことから、メダカにおけるヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体が曝露の指標として有効であることが示唆された。さらに、ヘテロサイクリックアミン曝露期間に伴い付加体生成量も増加することから、継続的に摂取すると体内に蓄積すると考えられた。一方、哺乳動物においてもヘテロサイクリックアミン-蛋白質付加体が曝露の指標となりうるかどうか検討するため、ラットを用いて血中蛋白質付加体の解析を行った。高用量単回投与実験においては、付加体生成が確認できたが、3日と短期間で消失することがわかった。低用量反復投与実験においては、いずれの時点においても血中蛋白質付加体は検出されなかった。また、臓器分布を調べたところ、付加体は肝臓にのみ検出された。これらの結果から、魚類では水中にヘテロサイクリックアミンが常時存在すれば継続的に曝露され、蛋白質付加体として蓄積されるが、主として摂食を通してヘテロサイクリックアミンが体内に入ると考えられるヒトを含む動物では、蓄積されにくく、血中にはごくわずかしか存在しないものと推察される。今後、血中蛋白質付加体をヒトにおけるヘテロサイクリックアミン曝露の指標とするためには、酸加水分解により元のアミンとなるsulfinamide以外の付加体の測定方法や、より高感度な検出法およびサンプル濃縮法などの検討が必要であると考えられる。
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