CYP2Bサブファミリーに属するチトクロームP450(P450)はフェノバルビタール(PB)等の外来化学物質によって誘導されることが知られている。この誘導の機構についてはまだ多くが未解明である。本学動物実験施設で繁殖していたSD(Qdj : SD)ラットは、PB処理によってもCYP2B2の誘導が起こらない変異ラットである。本ラットはCYP2B P450の発現制御機構を解析する上で極めて貴重と考えられ、誘導不全の原因を解明できれば、問題の解決に資することが期待できる。そこで申請者はこのようなアイデアを基に本変異動物の遺伝子構造解析を中心にして解析した。その結果、Qdj : SDラットでの誘導不全の原因はエクソンでの塩基置換や欠失等に基づく変異タンパク質の生成によるものではないことを確認した。また、誘導に重要な役割を持つと言われている誘導剤応答性配列(PBREM ; Phenobarbital-Responsive Enhancer Module)を含む遺伝子上流の約4.7kbpにも重大と考えられる変異は認められなかった。PBREM結合性の転写因子の機能不全をも考え、ゲルシフトによる分析を行ったが、野生型ラットと同様のDNA-核抽出物結合が確認された。一方、Qdj : SDラットのCYP2B2 mRNA発現量を薬物未処理の野生型ラットと比較した結果、前者の発現量は1/10以下であった。これらの結果を総合して、Qdj : SDラットのCYP2B2が誘導剤に応答しない理由は、1)イントロン等の今回調査した以外の遺伝子領域に欠陥が存在するか、あるいは2)PBREM結合性のもの以外の転写制御因子の欠陥であることが明かであると考えられた。また、誘導不全は誘導剤に対する応答性というよりは、基礎発現の障害に起因することが強く示唆された。
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