研究概要 |
本研究は,免疫担当細胞などの生体にとって重要な細胞種を含む血液細胞について,薬物代謝酵素の発現様式とその生理的機能を明らかにすることを目的とした.6種のヒト血球系培養細胞について,13年度は,12年度のP-450(CYP)の発現解析に続き,第II相の薬物代謝酵素である抱合酵素の発現解析を行った12年度は,硫酸転移酵素(SULT)について報告したが,本年度はグルクロン酸転移酵素(UGT)およぴグルタチオンS-転移酵素(GST)について解析を行った.多くの薬物・異物の抱合に関係するUGT1Aファミリーの発現はリンパ球系のMOLT4,BALL-1でのみで見られた.BALL-1では8種のUGT1Aサブタイプが発現し,MOLT4では2種のUGT1Aサブタイプの発現が見られた.ステロイドの抱合を行うUGT2Bファミリーの発現はほとんどの細胞種で見られたが,UGT2B10は4種のリンパ球系細胞のみに,また,UGT2B17はK562細胞にのみ発現していた.また,GSTの発現に関しては,GSTA4,GSTP1,GSTT1の発現がすべての細胞種で確認されたが,タバコの発癌物質の解毒に関係するGSTM1の発現はMOLT4にのみ発現が見られた.以上の結果から,SULTの結果とあわせて,抱合酵素の発現は細胞種により異なり,細胞特異的に発現するサブファミリーの存在が明らかとなった.このような細胞種による抱合酵素の発現の違いは,薬物や環境汚染物質の毒性に対する感受性に影響するものと考えられ,安全な薬物治療や環境汚染物質の毒性評価に指針となるものである.過酸化水素水(100μM)による過酸化ストレスの影響をK562細胞で見たところ,CYP3A4で7倍,GSTP1で10倍の発現の増加が観察された.また,MOLT4について肝臓の薬物代謝酵素を誘導する化学物質の影響を見たところ,β-ナフトフラボンや3-メチルコラントレンによりCYP1A1の、発現が3〜4倍増加し,フェノバルビタールによりCYP3A4の発現が抑制され,また,UGT2B4の発現は5倍上昇した.12年度の結果と合わせ,以上の結果から,炎症や酸化ストレス,環境汚染物質などが,血球系細胞に対し影響を与え,その結果,薬物の薬効や副作用,異物の毒性が変化する可能性があることが示唆された.
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