研究概要 |
骨組織は、宇宙での微小重力環境下で大きなダメージを受ける組織である。本研究は、骨芽細胞を、クリノスタット培養装置による擬似微小重力環境下で培養し、その変化を知ることにより、骨破壊の原因を探ると共に、ダメージの回復に貢献する薬物を探索することである。高重力(40〜80G)負荷は、骨芽細胞の増殖を抑制し、その機能(アルカリホスファターゼ活性、コラーゲン合成等)を増加させることを、以前明らかにしていたので、平成12年度は、主に、高重力と微小重力の間をうめるものとして、日常的に経験している低重力(0.5〜1.0G)がどのような作用をもたらすか検討し,低重力負荷は、高重力負荷とは異なり、細胞増殖を促進することにより、積極的に骨形成を促進することを明らかにした(文献)。平成13年度は、骨芽細胞を擬似微小重力環境に暴露すると、アルカリホスファターゼ活性は一時的に低下するが、オステオカルシン合成は継続的に増加することを明らかにした。オステオカルシンは、骨吸収を促進する物質と言われているので、この事実は、微小重力環境に骨組織が曝されると、一時的な骨形成の抑制と、継続的な骨吸収の促進により、骨破壊が進むことを示唆した。なお、アルカリホスファターゼ活性の低下は、活性型ビタミンD_3により回復したので、活性型ビタミンD_3は、微小重力環境下でも、骨疾患に有効である可能性が示された。平成14年度は、細胞内情報伝達系について検討した。擬似微小重力環境は、細胞質骨格系に変化を与え、オステオカルシン合成を引き起こすこと、しかし、細胞質骨格系はアルカリホスファターゼ活性の変動には影響を与えないことを示した。さらに、擬似微小重力は、細胞内cAMP量を、細胞質骨格系の関与なしに上昇させることも明らかにした。今後、cAMP増加作用の機構解明とともに、cAMP、細胞質骨格系、細胞機能との連関をより詳細に検討していく予定である。
|