【目的および現状】EBMにおけるEvidenceの1つとして費用効果分析に代表される医療経済学的分析の結果が有用であることは認知されている。本研究は3ヵ年計画によって産業保健施策の効果を、医療経済学的知見を目標に、健康効用値増分の側面、労働安全衛生法に定める施策パフォーマンスの達成度などの角度から測定評価、プログラム施行法の有効性および効率的性に関するEvidence(根拠)を求める。総括的報告は現在投稿中である。 【対象及び方法】昨年度および一昨年度の結果、健康効用値を目的変数とした重回帰分析の場合、産業保健費用と、勤務形態、職種などは有意に影響する要素であることを報告した。今年度は昨年度の調査研究結果の取りまとめとしてTHP(Total Health Promotion)活動を実行している企業において10年間の経年的な健康事象の変化が加齢変化を押えることができるのか、あるいはTHPの浸透度が健康事象に差を生じるのかどうかの観点から実証的に調査結果の評価を行った。調査対象企業は昨年度報告したので省略するが、10年間毎年健診を受けている群6287名を対象に解析、費用便益分析においては結果(Outcome)のみの比較を詳細に行った。Outcomeは、1人あたり年間医療費(通院および入院)、年間受療日数、拡張期血圧、収縮期血圧、脂質系、肝機能系、末消血系指標、5歳年齢階級別コホートを作成して健康事象の変化を検討。事業所規模を従業員数にて5群に分けて、THP活動浸透度の指標として小規模事業所とした。【結果および考察】調査対象職種は事務系2割、製造現場作業系8割であった。THP開始時平均年齢は38.6±8.4歳、経年的医療費の低減がみられる。年齢階級別にみると、高齢者群での検査値が対照群に比し良好で、医療費・年間受診日数が少ない。従来の健康活動実施期間中は有所見者数、医療費ともに増加しつづけているがTHP開始3年後に正常者は減少傾向になる。THP開始3年後から所見ありの増加傾向に抑制がかかる。本知見は産業保健施策が健康事象に及ぼすPositiveな効果を記述的に示せたと考えられる。
|