虚血性心疾患はその発症に遺伝要因と環境要因が複雑に関与している多因子性疾患である。虚血性心疾患の予防法を開発するためには、遺伝的リスクファクターとなっている個々の遺伝子を同定すること、およびリスクファクターの組み合わせと発症の危険率との関係を明らかにすることが重要である。本研究では、多くの虚血性心疾患の感受性遺伝子を同定し、それらの組み合わせによる相加効果と疾患発症の関係を明らかにすることを目的としている。本年度は、虚血性心疾患を発症した258名および健康な成人291名を対象に虚血性心疾患の基礎疾患である高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高Lp(a)血症、血栓症などとの関連が示唆されている11個の遺伝子(APOE、MTHFR、 AGT、 ACE、 LPA、 HTT、 LIPC、 ADRB3、 LPL.、 PAI1、 ENOS)の機能性変異と虚血性心疾患発症との関連を調べた。上記遺伝子のうち、APOE、 MTHFR、 AGT、 LPAと虚血性心疾患発症との間に関連がみられたが、これらの疾患発症に対するOdds比は1.4から1.9であり、その効果は単独ではあまり強くなかった。しかし、これらの遺伝子を組み合わせて機能性変異遺伝子の保有数と虚血性心疾患発症との関連を調べたところ、保有する変異遺伝子の数が増えるにつれてOdds比も上昇した。このことは作用の弱い感受性遺伝子の相加効果が虚血性心疾患の遺伝要因として重要であることを示唆している。今後は、さらに多くの候補遺伝子について機能性変異を検出し、疾患感受性遺伝子の相加効果を系統的に分析していく予定である。
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