研究概要 |
虚血性心疾患はその発症に遺伝要因と環境要因が複雑に関与している多因子性疾患である。本研究では、まず健康な成人約400名を対象として、虚血性心疾患の基礎疾患である高コレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高血圧などと関連する新たな機能性変異遺伝子の検索をおこなった。その結果、血清コレステロール値と関連するPeroxisome proliferator activated receptor α遺伝子(PPARA)のVal227Ala多型、HDLコレステロール値と関連するEndothelial lipase遺伝子(LIPG)の2237G/A多型(3'非翻訳領域)、収縮期血圧および高血圧と関連するAdipocyte-derived leucine aminopeptidase遺伝子(ALAP)のLys528Arg多型を検出した。しかし、虚血性心疾患患者295名と健康な成人291名を対象とした症例・対照研究では、これらの3つの遺伝子変異が虚血性心疾患の感受性遺伝子であるという証拠を得ることはできなかった。 これら3つの遺伝子以外にも、虚血性心疾患の基礎疾患である高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高Lp(a)血症、血栓症などとの関連が示唆されている11個の遺伝子(APOE、MTHFR、AGT、ACE、LPA、HTT、LIPC、ADRB3、LPL、PAI1、ENOS)の機能性変異と虚血性心疾患発症との関連を調べた。上記の遺伝子のうち、APOE、MTHFR, LPAの機能性変異と虚血性心疾患との間に関連がみられたが、これらの疾患発症に対するOdds比は1.4から1.9であり、その効果は単独ではあまり強くなかった。しかし、これらの遺伝子を組み合わせて変異遺伝子の保有数と虚血性心疾患発症との関連を調べたところ、保有する変異遺伝子の数が増えるとOdds比は上昇した。このことは、作用の弱い感受性遺伝子の相加効果が虚血性心疾患の遺伝要因として重要であることを示唆している。
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