研究概要 |
ヒト染色体を導入したマウスES細胞より作製されたTranschromosomic(Tc)マウスは,ヒト型代謝系を再現するマウスの作製,ヒト型免疫系を持つマウスの作製,ヒト遺伝子(群)のin vivoでの解析等への幅広い応用を可能とした。しかし,選択培養を行わなければ外来染色体の脱落が高頻度で生じること,マウス個体ではそのような選択操作が出来ないこと,外来染色体の子孫への伝達が困難なこと等の問題点がある。これらの問題点を克服し,安定に外来染色体を維持,子孫への伝達可能なシステムの構築を目的として,loxP配列をマウス染色体テロメア近傍に組み込んだES細胞を作製した。 まず、Hprt-/-であるマウスES細胞株E14tg2aにおいて、内在性のマウス10番染色体末端に相同組み換えを利用しloxP-3'HPRTを導入した。次に相同組み換えを高頻度に起こすトリDT40細胞中でヒト染色体(ヒト6、11、21番染色体)の目的領域のセントロメア側に相同組み換えでloxP-5'HPRTを導入した。6番、21番染色体については目的領域のテロメア側に相同組み換えで外来テロメア配列を挿入することで、その領域よりテロメア側を切断した。以上のような改変ヒト染色体を上記の改変マウスES細胞に微小核細胞融合法を用いて導入し、Cre発現およびHAT選別により、loxPサイトでの部位特異的転座染色体を保持するES細胞クローンを得ることに成功した。これまでに1)ヒト11番染色体上ゲノムインプリンティング遺伝子領域(2Mb)、2)21番染色体上のダウン症候群候補領域(5Mb)、3)ヒト6番染色体上のHLA遺伝子クラスター(5Mb)をマウス10番染色体末端に転座させることに成功し、少なくともES細胞中では、上記の染色体領域がで極めて安定に保持されることが確認できた。今後は,この実験系の汎用性、有効性を検討していく。
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