2日齢のラット中脳切片を作製・培養後、パラコートの毒性とその保護機構について検討を行った。毒性の評価は、免疫組織学的にチロシン水酸化酵素抗体によるドパミン神経とジアフォラーゼによるNOS神経の二重染色を行い、顕微鏡下で細胞数をカウントすることによって行った。その結果、用量依存性のドパミン神経細胞死が認められたが、25μMまでは著明な細胞死は観察されなかった。50μMのパラコートによって誘発される毒性は、ドパミン取り込み阻害薬(GBR-12909)で完全に抑制された。また、MK-801及びL-NAMEによっても抑制され、5-4に示した実験結果を指示した。蛋白合成阻害剤であるcycloheximideによっては細胞死は部分的にしか抑制されず、パラコート単独の細胞死にはアポトーシスの関与は小さいことが示唆された。単独ではドパミン神経細胞しを誘発しない用量である10μMのパラコートで処理した後に、連続して同じく細胞死を誘発しないMPP+ 1μMに1日間暴露させると、著明なドパミン神経細胞死が誘発された。この細胞死は、caspase3、9の阻害薬及びcycloheximideによって強く抑制されたので、アポトーシスの関与が示唆された。また、この毒性は、MK-801、DNQX、L-NAME及びdeprenylによっても抑制された。更に、D2/3アゴニストであるcabergoline及びtalipexoleによって、細胞死はほぼ完全に抑制された。このことは、パラコート及びMPP+の誘発する細胞毒性の制御にD2/3受容体が関与し、D2/3作動薬はドパミン細胞死抑制に有効な薬剤であることを示すものである。 本研究は、パラコートのような外因性の化学物質の低濃度・長期間に渡る暴露によって、中枢神経系、特にドパミン神経の脆弱化が起こり、例えばパーキンソン病の様な神経変性疾患の素地になりうる可能性を示唆するものであった。
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