白血球は傷害発生後初期に傷害部位に浸潤し、活性酸素や各種サイトカイン等を産生・分泌することにより炎症反応の中心的役割を担っている。血管内膜肥厚も内膜傷害に起因する反応であることから、内膜肥厚形成においても白血球が関与していることが推察される。これまでの研究で、vitamin E(VE)欠乏のような酸化ストレスが高い条件下で白血球の傷害部位への集積が増大し、その後の肥厚形成への関与が大きくなることを認めた。白血球が関与する一連の反応の最初のイベントは白血球-血管内皮細胞間接着であることから、本研究では白血球の内皮細胞への強固な接着に関与するインテグリンファミリー接着分子Mac-1(CD11b/CD18)阻害による血管肥厚抑制の可能性を検討した。カテーテル擦過法によりマウス頚動脈内膜を傷害し、抗Mac-1単クローン抗体処置の影響を組織学的に評価した。VE欠乏群および正常対照群ともに傷害21日後には新生内膜肥厚がみられたが、肥厚の程度はVE欠乏群の方が有意に高度であった。なお、収縮性血管リモデリングの発現は両群ともに顕著には認められなかった。抗Mac-1抗体処置により内膜肥厚は両群で抑制される傾向はみられたが、その効果は有意ではなかった。白血球膜接着分子CD11a、CD11b、CD18およびCD62Lの発現をflow cytometryで検討した結果、非刺激時およびPMA、fMLP、H_2O_2刺激時の発現量にはいずれもVE欠乏の影響はみられなかった。したがって、Mac-1を介する白血球接着は白血球による内膜肥厚形成には関与していないと思われる。一方、L-およびP-セレクチン阻害薬fucoidinはVE欠乏時の肥厚増大を有意に抑制し、またCD62Lには変化はないが、血小板膜CD62Pの発現はVE欠乏群で刺激時、血小板凝集の亢進とともに増加していたことから、白血球の血管肥厚形成への関与においてP-セレクチンが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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