研究概要 |
免疫抑制薬、cyclosporine A(CsA)およびtacrolimus(TCL)は、腎・肝移植や骨髄移植における拒否反応の抑制に不可欠な薬剤である。しかし、これら薬物による腎、肝、中枢毒性が治療上の問題点としてあげられている。そこで、脳グリア細胞の一酸化窒素(NO)に着目し、免疫抑制薬がグリア細胞を作用標的として血液脳関門透過性を高進させ、脳神経細胞の障害を誘発する可能性について検討した。 (1)マウス脳血管内皮細胞株(MBEC4)をインサート内面に培養したmonolayer系とMBEC4およびグリア細胞株(C6 glioma)をそれぞれインサート内面および外面に培養した共培養系を作製した。CsAによるMBEC4のsodium fluorescine(Na-F)透過性高進は、共培養系の方がmonolayer系より有意に大きかった。この結果は、グリア細胞の存在下ではCsAによる血液脳関門の機能障害が増悪することを示唆する。(Cellular and Molecular Neurobiology,20:781-786,2000) (2)C6 glioma細胞をフェニレフリンで刺激するとNO産生が増加する。CsAあるいはTCL単独ではC6細胞のNO産生に影響を与えなかったが、これら免疫抑制薬はα1受容体刺激誘発NO産生を著明に増大した。この増強作用は、細胞内Ca2+動態に関与するIP3受容体の遮断薬により抑制された。従って、CsAやTCLはIP3受容体活性化を介して細胞内Ca2+濃度を上昇させ、α1受容体刺激誘発NO産生を増大するものと推測される。(European Journal of Pharmacology,407:221-226,2000) 以上、CsAは血液脳関門を構成するグリア細胞に作用し、刺激誘発NO産生を増大させ、血液脳関門の機能障害を誘発する可能性が示唆された。この機構が、CsAの中枢毒性である振戦・痙攣発現の「引き金」となるかもしれない。
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