薬物代謝酵素CYP2C9の遺伝多型の薬物治療学的意義を明確にするために、代謝にCYP2C9が主として関与するとされる高コレステロール血症治療薬フルバスタチン(FL)を取り上げ、ヒトCYP発現系を用いてin vitroで解析するとともに、個々の患者のCYP2C9遺伝子型と薬物濃度並びに治療効果との関係を追究した。 In vitroでの検討により、FLの主用代謝物のあうち5位水酸化体(M2)および脱イソプロピル化体(M5)の生成には専らCYP2C9が関与する一方、6位水酸化体(M3)の生成にはCYP2C9のほかにCYP3A4も関与すること、また脱イソプロピル-2-プロピオン酸体(M4)の生成にはCYP2C9よりもCYP2E1の関与が大きいことが、それぞれ代謝パラメータとしてのVmax/Km値の解析結果から判明した。このことは、ヒト肝ミクロソームでの2C9あるいは3A4の特異的阻害剤であるスルファフェナゾールやケトコナゾールによる阻害特性の解析結果からも支持された。一方、CYP2C9*3発現系ミクロソームでは、M2、M3およびM5化の肝固有クリアランス(Vmax/Km)はCYP2C9*1発現系でのそれに比べ約60-75%にまで低下することが明らかとなった。 CYP2C9*3ヘテロ変異群と2C9*1群との間には、FLの血中濃度推移および脂質関連の臨床検査値の変動率ともに有意差は認められなかった。このとき、CYP2C9*3ヘテロ変異群の血中のM3/FL比は低下傾向に、一方M4/FL比は上昇傾向にあった。以上のことから、CYP2C9*3ヘテロ変異によりFLのM3化代謝活性は低下するものの、CYP2C9よりもCYP2E1の方が大きく関与することがin vitro解析の結果明らかになったM4化反応への依存度が代替的に高まり、結果としてFLの体内動態および薬効には変動を生じないものと考えられた。
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