13年度は、特に脳の構造が保たれている海馬および脊髄の切片培養系および海馬初代培養系において4-ヒドロキシノネナール(4-hydroxynonenal、HNE)誘発神経変性および細胞死について検討した。 海馬初代培養系において、HNE25mMの暴露により24時間以内に顕著な細胞死が認められた。この細胞死は、非選択的なcaspase阻害薬(z-VAD-fmk)およびcaspase 3特異的阻害薬(Ac-DEVD-CHO)により濃度依存的に抑制された。しかしながら、s-allyl-L-cysteineは、HNE誘発細胞死に対して細胞死抑制効果を示さなかった。次に海馬および脊髄切片を用いてプロピジウムイオダイドを用いた顕微鏡-光学的手法で、HNE誘発細胞死を調べた。海馬および脊髄切片培養系において、HNE25-100mMの単独の暴露では顕著な細胞死は認められなかった。脊髄切片において、グルタミン酸ナトリウム(Glu)2.5および5mMの暴露は灰白質において顕著な細胞死を引き起こしたので、HNE50mMとGlu2.5mMの併用の効果を検討したところ、非常に激しい細胞死が脊髄全域にわたって観察された。この細胞死に対し、z-VAD-fmkは、海馬初代培養系の場合と同様に、濃度依存的な細胞死抑制効果を示した。以上の結果より、HNEは海馬初代培養系では、単独で細胞死を引き起こすが、切片培養系では単独では顕著な細胞死を引き起こさないこと、また脊髄切片培養系においてはGluとHNE共存により相乗的な細胞死が引き起こされることが明らかとなった。さらに、この細胞死には少なくとも一部はcaspaseを介しており、とくにcaspase 3が重要である可能性が考えられた。海馬切片培養系を用いたLTPに対するHNEの効果については現在検討中である。
|