研究概要 |
ステロイドホルモンは発生、ホメオスタシスおよび細胞死に重要な役割を担うことがわかっているが、ステロイドホルモンによるアポトーシス誘導機構については未だよくわかっていない。ショウジョウバエでは、昆虫のステロイドホルモンである変態ホルモン、20-Hydroxyecdysone(HE)の生体内濃度の変化によって細胞死が制御されると考えられている。ショウジョウバエの胚期に起こる細胞死は20-HEの生体内濃度が上昇した時期に、また変態期での細胞死は、ほぼ完全に低下した時期に起こることが報告されている。このような相違は、細胞種によるホルモン反応性の違いを示していると考えられる。申請者は、ショウジョウバエ幼虫の中枢神経系から特殊な方法で細胞株を樹立した。そこで、ショウジョウバエの胚、幼虫型、成虫型の神経系細胞由来細胞株と考えられる細胞株を用い、20-HEの添加または除去により細胞死が誘導される系を確立し、ステロイドホルモンによる細胞死誘導機構を解析した。ステロイドホルモンは転写因子として機能するが、ショウジョウバエ細胞死関連遺伝子の発現も、20-HEによって制御されていることが、まず明らかとなった。細胞死関連遺伝子のうち、reaper, hidの発現量は20-HEによって変化することがわかったが、増加・減少の様子は細胞種によって異なり、しかも、20-HEを加えた時に細胞死関連遺伝子の発現が上昇するものと減少するものがあることがわかった。しかし、細胞死が誘導される時には、共通に両者の発現量が増加した。さらに、20-HE受容体、EcR-A, Bの発現量も細胞種によって異なっていることが明確となり、RNA interference法を用いた結果、EcR-Aを介して細胞死は抑制され、EcR-Bによって細胞死は促進されると考えられ、受容体の種類によって細胞死がコントロールされている可能性が示唆された。
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