研究概要 |
Nociceptinは,dynorphin A-(1-17)と高い相同性を持つ内因性のペプチドであるが,従来のオピオイド受容体には結合せず,opioid receptor like-1受容体(ORL1受容体)に結合する.Nociceptinは,実験に用いる用量,投与時間の違いによって,痛覚過敏を誘発したり,逆に抗侵害作用を示す.また,自発運動量を増加させたり,減少させたりするなど,相反する作用を有することが報告されている.Nociceptinを脳内に投与すると,学習・記憶が障害されたり,海馬における長期増強が抑制されること,ORL1受容体をノックアウトすると,空間的注意力や潜在学習能力が増強されることなども報告されている.今回は,nociceptinの学習・記憶行動に対する作用が,痛みや自発運動量に対する作用のように,用量により相反する作用を持つか否かを,自発的交替行動法および受動的回避学習法を用いて検討した.比較的高用量のnociceptinは,学習・記憶行動を障害するが,低用量のnociceptinは,逆にscopolamineによる学習・記憶障害を改善することが明らかとなった.また,高用量のnociceptin投与による学習・記憶行動の障害に対し,naloxone benzoylhydrazoneは拮抗作用を示したが,低用量のnociceptinによる改善作用は減弱されなかった.さらに,低用量のnociceptinによる改善作用は,nor-binaltorphimineによっても拮抗されなかった.以上の結果より,nociceptinは脳内で学習・記憶行動の調節にも重要な役割を持ち,痛みや自発運動量に対する作用のように,用量の違いによって相反する作用を持つことが明らかとなった.
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