アポトーシスは生理学的な細胞死の過程であり、この細胞死の誘発に関しては多くのシグナル伝達系の関与が示されている。しかしながら、シグナル受容以降の分子機構については不明な点が多く残されている。そこで私たちはシグナル受容以降のアポトーシスの分子機構、すなわちこの細胞死の生化学的な特徴であり、かつ実行過程でもあるDNA断片化の分子機構を解明するために検討を加えてきた。DNA断片化の標的であるDNAは核において塩基性タンパク質のヒストンとともにクロマチンと呼ばれる複合体を形成している。クロマチンは通常さらに密に折りたたまれて核内に収納されているが、転写や複製などの核内でのイベント時にはヒストン化学修飾などにより、その構造が変化することで酵素の触媒を受けられるようになると考えられている。そこで、DNA断片化におけるクロマチン構造変化の関与についてヒストン化学修飾を亢進させた細胞核を調製して検討を加えた。その結果、DNA分解酵素に対する感受性が亢進することを明らかにした。したがって、ヒストンのアセチル化やリン酸化などの化学修飾がアポトーシス実行過程の引き金となることが示唆された。さらに、アポトーシス誘発時のクロマチン構造変化の有無について、円二色性分散計を用いて実際に計測したところ、タンパク質の二次構造の一種であるα-ヘリックスの減少を示す結果が得られた。今後、このクロマチン構造変化がアポトーシスの共通の分子機構であるかどうかについてさらに検討する予定である。
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