アポトーシス実行メカニズムがクロマチン構造変化にあると考え、検討を行なった。カリキュリンAによりアポトーシスが誘発された胸腺細胞ではDNA断片化に先行してヒストンH1、H2AおよびH3リン酸化が亢進していた。これらのヒストンリン酸化はクロマチンのα-ヘリックス構造を減少させることにより構造変化を引き起こし、DNA断片化酵素に対する感受性を増大させた。 以上はタンパク質脱リン酸化酵素阻害薬処置により得られた結果であるが、ヒストン化学修飾がアポトーシスの共通の機構であることを示すため、ヒトアストロサイト培養系を用いて検討した。ヒトアストロサイトを生理食塩水に暴露後、正常培地で培養するとアポトーシスが誘発された。この細胞死にはヒストンH2Aリン酸化が先行していた。 上記の研究成果により示唆されたアポトーシス実行におけるクロマチン構造変化の重要性を明確にするため、新規アポトーシス誘導剤を探索した。プラスミン阻害薬であるYO-2は胸腺細胞にアポトーシスを誘発させたことから、本化合物はアポトーシス誘発におけるクロマチン構造変化を検討する材料として有用であると考えられた。 培養アストロサイトを過酸化水素や低Ca^<2+>培地に暴露後、正常培地で培養すると遅発性のアポトーシス様障害が誘発された。この細胞障害はT-588、CV-2619およびイブジラストにより抑制された。さらに、cGMPはミトコンドリアpermeable transition poreを抑制し、抗アポトーシス作用を示すことを実証した。 以上より、ヒストンリン酸化、特にヒストンH2Aのリン酸化がアポトーシス実行の共通の機構として重要であることが示唆された。ヒストンリン酸化はクロマチン構造を弛緩させ、DNA分解酵素に対する感受性を増大させる可能性が示された。また、アストロサイトにおける検討からcGMPの抗アポトーシス活性の分子機構を明らかにした。
|