我々は、日本人に多く認められるサイログロブリン(Tg)遺伝子異常症としてC1264R変異とC1996S変異を報告してきたが、その他に新たに4ヵ所の変異を確認した。2ヵ所(C1077RとG2375R)は日本人に認められたものであり、他の2変異(G233EとV1460I)はヒスパニック系米国人に認められたものである。また、先天性甲状腺機能低下症動物モデルとしてrdwラットにG2320Rミスセンス変異を解析した。これらの変異Tgは細胞内を正常に輸送されることなく小胞体に蓄積する。そこで、変異Tg蛋白を培養細胞に発現させることにより細胞内輸送障害を再構築し、その病態解析をすることとした。まず、正常および変異を有するヒトTg cDNA発現ベクターを腎細胞株に導入し、Tg発現細胞株を樹立した。正常Tgを導入した細胞株よりは培養液中にTgが分泌されたが、変異Tgを導入した細胞株はTgを分泌しなかった。これ等の細胞内輸送障害型変異Tgを導入した安定発現細胞内でおこる遺伝子発現の変化をcDNAアレイを用いて検討した。発現レベルの差は定量的RT-PCRにて確認した。既知遺伝子のcDNAアレイを用いた検討では、C1264R、C1996S変異Tg発現細胞株ともに2倍以上発現増加している遺伝子は、リボゾーム蛋白、分子シャペロン、プロテアゾーム、細胞増殖、アポトーシス、転写因子、DNA複製に関連する遺伝子が多かった。サブトラクション-PCR法にて作成したcDNAライブラリーでは1500クローンをスクリーニングし、654クローンにインサートを認め、うち発現レベル差の大きかった244遺伝子をシークエンスした。うち、81遺伝子はリボゾーム蛋白遺伝子であったが、他は分子シャペロン、プロテアゾーム、転写因子、DNA複製に関連する遺伝子であったが、約30遺伝子は現在機能不明の遺伝子であった。
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