本研究は血栓症、特に冠動脈疾患、脳血管障害、および糖尿病の代表的合併症である大血管症に注目し、遺伝子型とこれらの発症率、進展度、治療効果や予後動脈硬化の重症度(狭窄度や病変分布)の関係につき研究することを目的としている。具体的には(1)血管作動性物質、(2)脂質代謝関連因子、(3)血液凝固因子、(4)血小板因子など動脈硬化症や動脈血栓症に関係の深い因子で、遺伝子に個体差(遺伝子多型)の認められるものに注目している。各因子に対して(a)遺伝子型検査(タイピング)(b)血清や血康中の当該因子活性測定を並行して行い、正常者群と疾患群での遺伝子頻度の違いや、遺伝子型により当該因子の活性に違いがないかを比較検討した。 平成12年度までに患者の蓄積と検体採取、臨床所見、検査値の整理を行い、ついで特に血小板受容体の遺伝子タイピングを中心に研究を進めた。その結果、血栓形成の初期段階を決定する重要分子であるvon Willebran因子の受容体(GPIb/IX/V)に新たな遺伝子多型を発見した。我々は過去にGPIb/IXの別の多型が血栓症の易罹患性と関連することを報告しており、今回の新たな多型の持つ意義を追求することが課題と考えられた。 平成13年度は、この新たな多型の機能への影響をCHO細胞を用いたin vitroの発現実験系で検討した。その結果、GPIbα70Leu/Phe多型は、受容体機能に重要と考えられるleucine-rich repeat配列中にあり、しかもconsensus配列であるLeu残基の変異を起こすにもかかわらず、リガンド結合能に影響を与えないことが明らかになった。しかし、数種類の構造依存性のモノクローナル抗体を用いた実験では、70Phcタイブの蛋白は、幾つかのモノクローナル抗体との反応性が低下していた。従ってこの変異は受容体の立体構造に影響を及ぼしていることが示唆された。この成果は国内および国際学会で発表した。今後は、この変異が血栓形成能や易血栓性に与える影響を調べ、さらに血栓症の疾患感受性や出血性素因と関連するかを検討することが急務となった。
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