本研究は、血栓形成因子のなかで、最近提唱されている遺伝的危険因子(遺伝子多型)に着目し、候補遺伝子アプローチ法にて血栓症との関連について日本人のデータを蒐集し、個人個人の疾患予測のための遺伝子診断システムを構築することを目的とした。平成12〜13年度の研究で患者の蓄積と検体採取、臨床所見、検査値の整理を行い、ついで特に血小板受容体の遺伝子タイピングを中心に研究を進めた。その結果、血栓形成の初期段階を決定する重要分子であるvon Willebran因子の受容体(GPIb/IX/V)に新たな遺伝子多型を発見し、多型が受容体機能に与える影響を報告した。 平成14年度は、血小板機能に重要な血小板活性化因子受容体(PAF receptor)の多型について検討した。PAFを血小板に添加していくと、1x10^<-7>M添加では、遺伝子型AAとDD両者とも1次凝集のみが見られたがその程度は、AAに比べDDでは約半分に減弱していた。2x10^<-7>M添加では、AAは不可逆な2次凝集に至るのに対し、DDでは1次凝集のみが認められた。8x10^<-7>M添加では、両者とも2次凝集に至るものの、DDにおける凝集の程度はAAに比べ弱く、この多型の血小板機能への関与が示唆された。タイピングの結果、日本人におけるPAF-R遺伝子多型の出現頻度は、wild typeのホモAAが約75%、ヘテロであるADが23%、mutantのホモDDが3%であることが明らかになった。また虚血性脳血管障害の多型一疾患関連研究ではConnexin37遺伝子多型C1016Tについて検討した。脳血管障害患者ではT alleleの頻度が有意に多く、この多型は脳血管障害の危険因子となり得るが、高血圧を介した機序が推測された。3年間の研究で得られたこれらの成果は今後の血栓症リスクの遺伝子診断を考える上で非常に貴重な知見を提供したといえる。
|