我々は、癌の抗腫瘍剤に対する治療反応性低下すなわち耐性において、分子レベルで機構を解明し、その分子機構を指標とした耐性状態の遺伝子検査法の開発と臨床応用を試みてきた。葉酸拮抗剤のmethotrexate(MTX)治療反応性低下すなわち耐性の主要な分子機構として、薬剤の細胞膜輸送の低下が知られている。本研究では、薬剤耐性の状態を知り薬剤選択の指標となる耐性遺伝子発現の候補として、白血病細胞での薬剤膜輸送を担う還元型葉酸キャリアの遺伝子(RFC1)発現とその塩基配列をMTX耐性株化培養白血病細胞にて調べた。還元型葉酸leucovorinの供給下に作製した1600倍MTX耐性白血病細胞CCRF-CEMでは、標的酵素のジヒドロ葉酸 dihydrofolate reductase: DHFRの遺伝子増幅に加え、RFC1発現増加を示した。一方、酸化型葉酸PGAの供給下に作製した5000倍MTX耐性白血病細胞では、RFC1の46番コドンの2番目のヌクレオチド置換によりSer→Asnのアミノ酸置換をもたらすことが判明した。MTXに耐性化した白血病細胞CCRF-CEMの主要な抗腫瘍剤耐性の分子機構として、DHFRに加え、RFC1の多様な遺伝子変異が関与していることが明らかとなった。MTXに対する耐性の診断には、DHFR、RFC1など複数の遺伝子の発現変化や点突然変異など多様な変異が検出の指標となると考えられる。
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