研究概要 |
介護保険下で達成すべきシステム課題を明らかにするために、介護保険導入による高齢者のサービス利用行動変容と介護サービス供給への影響を調査した。 介護保険導入前については、1998年にA県I市(高齢者人口約16000人,老年人口割合約19%)において、在宅要援護高齢者1807名を対象に高齢者実態調査を行った。有効回答者数は1283名(有効回答率71%)であった。その中で、常時介護者がいる高齢者(A群)は1024名(80%)、常時ではないが介護者がいる高齢者(B群)は57名(4%)、介護者がいない高齢者(C群)は202名(16%)であった。 それらの3群を比較検討した結果、3群の背景の特徴とともに、日常生活における問題やサービス利用の現状とサービス利用の希望について明らかにすることができた。介護者がいない高齢者(7割が一人暮らし)の場合は、半数の人が「訪問介護」を利用していたが、「デイケア」や「デイサービス」などの通所サービスの利用に関しては1〜2割程度の利用であった。しかし、日常生活で困っていることとしては、「話し相手がなく、孤独である」が最も多く、7割の人が「訪問介護」の利用を、4割の人が通所サービスの利用を希望していた。常時介護者がいる高齢者でも「話し相手がなく、孤独である」が最も多く、「訪問介護」や通所サービスの利用を希望する人が、現在利用中の2〜3倍多くなっており、介護保険導入によってそれらのサービスが増えると予測された。一方、常時介護者がいる高齢者では、6割が医師の訪問診療を受けており、2割が医療器具の装着や看護婦等による医療処置を受けていた。そして、「日常生活で困っていること」では、2%の高齢者が「体や病気のことを相談する相手がいない」と答えていた。それにもかかわらず、「訪問看護」の利用者は1割であり、そのサービスを知っている人は半数で、しかも利用の希望者はその4割にすぎなかった。「訪問看護」に対する認知度は「訪問介護」や通所サービスに対する認知度の1/2であり、介護保険の導入に伴い「訪問看護」に対する認知度を高める必要があると言える。 また、常時介護者がいる高齢者を対象に、日常生活の自立度と、年齢、性別、疾病、家族のケア能力、社会的支援との関連を分析した。その結果、自立度と疾病、介護者の健康、社会的支援との間に相関関係が認められた。 介護保険導入後における1725名の二次判定の結果は、導入前に比べて介護度の高い高齢者及び一人暮らしの割合が多かった。介護保険導入前後におけるサービス利用行動変容の分析が今後の課題である。
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