1.文献検討 今年度は、地域母子保健活動における保健婦の実践能力について文献検討をおこなった。そのなかにはByrd(1997)らによる家庭訪問にプロセスに関する研究とReutter(1997)やSmith Battleによる熟練保健婦の実践能力に関する研究などがある。家庭訪問のプロセスについては、クライエントとの訪問スケジュールの調整、家に入る、ケアの判断をする、訪問を終えるという内容が示されている。また、Smith Battleは日々の家庭訪問活動のなかで認識されにくい専門性について検討し自己を反応的につかう(Responsive use of self)ということを示し、保健婦の活動の言語化を試みている。わが国においても精神分裂病者に対する訪問ケア技術についての研究や訪問時の保健婦の判断能力に関する研究が行われてきているが、虐待防止活動に焦点をあてた保健婦の実践能力に関する研究は事例報告に止まっている。 2.面接調査及び分析 児童虐待防止に向けた保健婦の援助内容を把握することを目的に22名の保健婦に面接調査を実施し、グラウンデッド・セオリー・アプローチの継続比較を用いて分析を行った。 保健婦の母親への支援はしんどさへの支援をコアカテゴリーとし、22カテゴリー、62サブカテゴリーが導き出された。支援は3段階で展開され、第一段階:しんどさに気持ちをよせる、第二段階:しんどさをマネジメントする、第三段階:しんどさを見守るである。これらの支援は各段階で保健婦が認識した母親のしんどさにより影響を受ける。それは第一段階<しんどさがあることへの気づき>、第二段階<家庭背景の深刻さ>、<心理的距離のとりにくさ>、<育児の現実と理想のギャップ>、第三段階<子どもへの感情の変化>、<親族サポートの変化>である。 また第一段階から第二段階へ保健婦が支援を進めることを困難にする要因(進行困難要因)としては、<監視的かかわり>、<保健婦主導のかかわり>があり、進行困難という認識としては<母親のコントロールの強まり>がある。第二段階から第三段階への母親の変化を妨げる要因(変化困難要因)としては、<対人関係の拡大困難>、<生活困窮>である。 今後はこれらの面接から帰納的に導き出されたカテゴリーを各事例で演繹的に検証し、カテゴリーの妥当性を確認していく。
|