研究概要 |
閉経後の中高年女性8名(55-60歳)を対象に,情動の最適化をもたらす運動として,快適自己ペース(走)歩行と集団でのダンス活動を50分間,異なる日の19時から実施させ,この間の気分,心電図,体温(鼓膜温と平均皮膚温),脳波,血液ホルモン(カテコールアミンとβエンドルフィン)濃度,NK細胞活性,並びに夜間の自覚的睡眠感と翌日夕食前までの気分を測定・評価した。これらの測定値を,同じ被験者が運動をしない対照日の同一時刻に測定した値と比較することで,快適自己ペース歩行とダンス活動の効果が明らかになった。快適自己ペース歩行,ダンス活動50分間の%心拍予備量の平均値は32.8±8.0(SD)と40.9±9.9%であり,10分毎の主観的運動強度(RPE)は9(かなり楽)から17(かなりきつい)の間にあったので,負荷強度は軽度から中等度と考えられる。安静対照日に比べ,両運動中に質問紙MCL-S.1で評価した快感情得点が上昇し,運動後30分間にリラックス感得点が上昇した。心拍数の増加は,快適自己ペース歩行よりダンス活動時が平均10bpm程度大きかった。鼓膜温の上昇が,両運動中観察された。3点法で求めた平均皮膚温は,ダンス直後上昇したのに対し,歩行直後には低下していた。脳波α波帯域パワー%は両運動直後に増加した。血液カテコールアミン濃度は両運動直後に上昇したがβエンドルフィン濃度に変化は認められなかった。NK細胞活性は,50分間の両運動直後に上昇した。このように,快適なペースの歩行や集団で行うダンス活動によって,体温の上昇,免疫系の賦活化,脳波の徐波化,情動の改善,夜間睡眠と翌日の気分の改善傾向が観察された。 従来,研究の少ない中高年女性は,更年期の気分障害に悩む世代でもあり,情動の最適化をもたらす50分間の無理のない快適ペースの個人運動,集団運動の効果は,応用的価値が高い。さらに体温-脳ホルモン-免疫系と情動の関連を検討していく。
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