本研究は、高齢者において、運動機能として重要である股関節および下肢の骨格筋の特性を検討し、これらとバイオメカニクス的に分析された歩行形態との関係を検討しました。そして、それにより歩行、階段歩行、転倒防止など具体的な日常動作における高齢者の運動機能維持・増進のためのガイドラインを作成することを目的として研究を進めてきました。 その結果、20歳から80歳代までの男女1000名を対象とした横断的データにより、筋量の低下は30〜40歳代から徐々に始まっており、とくに50歳代以降は直線的な低下を示すことが明らかとなりました。また歩行能力においては歩行速度の低下が加齢に伴い見られ、それは歩調によるものではなく、歩幅の減少によるものであることが分かりました。ではなぜ歩幅が狭くなるのか。これらについては従来から下肢の筋量の低下が影響することが言われて来ています。下肢の筋のうち、どの筋量の低下がそのような影響を与えているかを検討したところ、歩幅に最も影響するのが大腰筋の筋量であり、ついで大腿部伸筋群であることが示されました。つまり、日常の生活における歩行能力を維持するためには、大腰筋を鍛えることが必要であることが示唆されました。 この大腰筋の筋量増加を目的に、高齢者を対象として筋力トレーニングを行いました。マシーンを用いて筋力トレーニングを週2回行う、週1回行う、行わない場合を比較したところ、大腰筋は週2回群で増加をしましたが、週1回群では現状の維持にとどまり、何も行わない場合は減少を示しました。さらに家庭で簡単に行えることを目的とした自分の体重だけの筋力トレーニングを行った場合においても大腰筋の増加が認められました。従って、マシーンを用いた高齢者の筋力トレーニングは、最低週1回実施することが勧められます。またマシーンを用いることなく、自分の体重を負荷としてトレーニングを行うことでも効果が期待できることが示されました。
|