研究概要 |
【目的】血管内皮細胞が産生するエンドセリン-1は、運動により産生され、その産生は臓器特異的であることが示された(J Appl Physiol,1994,1997,and 1998)。エンドセリン-1は強力な血管収縮物質であるとともに、ノルエピネフリンの血管収縮作用を増強することから、エンドセリン-1が運動中に生じる血流再配分に直接的あるいは間接的な関与をしている可能性が考えられる。今回は、運動中に臓器特異的に産生されたエンドセリン-1が実際に局所にて血管収縮作用を引き起こすことにより血流調節を行っているか否かを検証するため、運動モデル動物にエンドセリン受容体遮断薬を投与した場合、腹部臓器と筋組織中の血流量に及ぼす影響を検討した。 【方法】ラットにトレッドミル走(30m/min・30分間)を負荷し、マイクロソフェアー法にて測定した腹部臓器(腎臓・脾臓)および筋組織(前脛骨筋、足底筋、ヒラメ筋)の運動前後における血流量の変化をエンドセリン受容体遮断薬投与の有無により比較した。 【結果】エンドセリン受容体遮断薬の投与により、安静時心拍数および安静時収縮期血圧は変化しなかった。今回の30分間の運動により、腎臓と脾臓で血流量が減少したが、遮断薬の投与により血流量の減少が有意に抑制された。また、運動により活動筋(前脛骨筋、足底筋、ヒラメ筋)の血流量は増大したが、遮断薬の投与により血流量の増大が有意に抑制された。 【考察】エンドセリン-1は、血管内皮細胞が産生する血管収縮物質であることから、運動により血流量が減少する腎臓や脾臓の血管内皮細胞でエンドセリン-1が産生され、それらの血管を収縮させることにより、運動時の血流量を減少させていることが示唆された。さらに、このことが、活動筋の血流量増大に寄与していることが示唆された。すなわち、運動中に腎臓や脾臓で産生されるエンドセリン-1は、実際に運動時に生じる血流再配分に関与しているというエンドセリン-1の新しい生理機能が示唆された。
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