乳酸輸送担体(MCT=Monocarboxylate Transporter)にはいくつかのアイソフォームがあり、特に筋に多いMCT1とMCT4が、運動時における乳酸の代謝に大きく関係していると考えられる。MCT1は酸化能力の高い組織に多く、乳酸の酸化に関係する。そして近年MCT1がミトコンドリアにも存在することが報告された。このことは乳酸は細胞質で産生されてミトコンドリアの増加に入って酸化されることを示唆している。そしてこれからMCT1が乳酸の酸化に関係することがさらにクリアーとなった。そこで本研究では、ミトコンドリアに存在するMCT1(mtMCT1)に注目し、mtMCT1がトレーニングによってどう変化するのか、また筋が萎縮する状況ではどう変化するのかを検討した。Wistarラットに3週間のトレッドミル走による持久的トレーニング、または1週間の尾部懸垂を行わせた。摘出した筋からミトコンドリアを分離して、mtMCT1のタンパク量を求めた。その結果持久的トレーニングによって、これまでの細胞全体での分析結果と同様に筋のmtMCT1は増加することが明らかとなった。ただしmtMCT1量の変化はミトコンドリア量の変化とも関係していて、どちらかというと遅筋線維ではミトコンドリアの増加と平行し、速筋線維ではミトコンドリアの増加よりも大きく、mtMCT1が増える傾向にあった。また持久的運動時の血中乳酸濃度とmtMCT1量とは有意な関係にあり、乳酸の酸化と運動時の血中乳酸濃度とに関係があることが示唆された。一方尾部懸垂によってmtMCT1が低下することが確認された。このようにこれまでの細胞全体の結果とほぼ同様に、ミトコンドリアのMCT1量も活動に応じて適応変化することが示された。
|