研究概要 |
身体運動は、自分の意志で運動を始めようとする「自律制御」と、いったん運動が始まったら、他の器官などに同調される「引き込み現象」から構築されている。これらの仕組みを明らかにするためには、その基礎づくりとして身体運動に関わる基礎原理を様々な方向から検討しておかなければならない。 本年度は、運動方向の調節という観点から、その場からの跳躍、つまり垂直方向と水平方向へ跳躍を対象に検討した。これまで、我々は垂直跳と立幅跳を比較して、二関筋筋である大腿直筋が運動方向の調節に大きく関わっていることを指摘した(Nagano, A. and S. Fukashiro : Biomechanical comparison of the role of bi-articular rectus femoris in standing broad jump and vertical jump. Jpn. J. Biomech. Sports Exerc. 4(1):8-15, 2000.)。この研究をさらに進めて、下肢の単関節筋である内側広筋・外側広筋、二関筋筋である大腿直筋・半膜様筋・大腿二頭筋・腓服筋長頭・短頭の計7筋を対象に両跳躍を比較検討した。その結果、膝関節の単関節筋(内側広筋・外側広筋)および足関節の二関節筋(腓服筋長頭・短頭)は両跳躍で差がなく、これらの筋は関節トルク増大のみに貢献していることがわかった。一方、大腿の二関節筋については、垂直跳で大腿の前面(大腿直筋)が、立幅跳で後面(半膜様筋・大腿二頭筋)が大きく働いていた。この筋活動により、立幅跳の股関節トルクが垂直跳に比べてかなり大きくなった。この2種類の跳躍の運動方向の調節は、足部に対する体幹位置とともに、大腿前面と後面の二関節筋によって行われていることが明らかになった。
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