研究概要 |
本研究の目的は,第1に高齢者のQOLを捉える指標を作成すること,第2に高齢者のQOLに影響を及ぼすと考えられる種々の要因(年齢,性別,家族構成,経済状態,疾病の有無,社会的活動の有無,趣味の有無,日常生活活動(ADL)能力水準,等)を身体的,精神的,社会的要因から総合的に取り上げ,これらの要因とQOLとの関係を明らかにすることであった. 今年度は,QOLの構成要素のうち生活満足度を中心に研究を行った.在宅高齢者の生活満足度は,QOLの上位概念であり,これを適切に捉え,評価することが重要である. 先ず,第1の目的である高齢者のQOLを捉える指標の作成を試みた.すなわち,在宅高齢者を対象とする新たな生活満足度調査票を作成した.「家族」,「日頃の過ごし方」,「身体的健康」,「対人関係」,「環境」,および「生活設計」の6つの仮説構造から理論的妥当性を考慮し,生活満足度調査項目14項目を選択した.1320名(男性665名,女性655名)の在宅高齢者を対象に調査を実施した.生活状況との関連,内的一貫性,および因子妥当性の観点から調査項目の有効性を検討した結果は,次の3点に集約される.1.「今後の生活設計に満足している」,「居住環境に満足している」および「家族や親戚との行き来に満足している」は内的一貫性の点あるいは因子妥当性の点から有効と判断されず,残る11項目が最終的に選択された.2.在宅高齢者の生活満足度の因子構造は,「家庭環境」,「身体的健康」,「周辺環境」および「友人関係」から構成される.3.最終的に選択された11項目は,信頼性および妥当性の点から,高齢者の生活満足度を捉える有効な項目と考えられる.なお,この結果は「教育医学」誌上において既に公表した(後述研究発表参照). 次に,第2の目的である高齢者のQOLに影響を及ぼすと考えられる種々の要因を検討した.生活満足度の性差および年代差を明らかにすることを目的に分析を行った.その結果,次の諸点が明らかとなった.1.家族及び身体的健康に関する生活満足度は女性よりも男性において高い.2.前期高齢者(75歳未満)の生活満足度は高く,男性では特に身体的健康に対して,女性では全要因に対してその傾向が認められる.一方,後期高齢者(75歳以上)の女性の生活満足度は男性に比べて全要因に対して低く,身体的健康や対外的友人に対する生活満足度において顕著である.3.生活満足度の性差や年代差は要因により異なり,要因ごとの把握が望ましい.なお,この結果は論文誌「体育学研究」に投稿中である. また,生活満足度と生活状況との関係を検討した結果,次の諸点が明らかとなった.1.対人関係に関する満足度は,男女とも親友の数,男子においてはボランティア活動と関連が認められた.2.生活状況要因が満足度に及ぼす影響は,身体的健康に関する満足度において最も高く,また,親友の数は,いかなる内容の生活満足度に対しても影響が大きいと考えられた.これらのことから,在宅高齢者の満足度の背景には多様な生活状況が存在し,生活満足度の内容毎に影響を及ぼす生活状況要因が異なると推測された.なお,この結果は論文誌「日本公衆衛生雑誌」に投稿中である.
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